成人の8割以上が歯周病を発症している?日本人の成人の8割以上は歯周病に罹患しているといわれています。しかしそういわれてもにわかには信じ難いのではないでしょうか。
歯周疾患の状態を知るのに私たちは細い棒にミリ単位のメモリのついたプローブという器具で歯と歯肉の間の溝の深さを測る歯周検査をします。下のグラフはその検査の結果を集計したものを平成17年度歯科疾患実態調査で厚生省が発表しました。
まずは歯のない者は除きます。
次いでそして成人の12.4%が歯周疾患のない者である、という結果からみて、検査しただけで出血する、歯石があり、歯周ポケットが4mm以上である者を歯周病がすでに発症していると考えますと、従来いわれていた成人の80%以上が歯周病を発症しているというのは非常に正しい数字であるといえるでしょう。
左の写真をご覧下さい。泥の様に見えるのは歯垢、つまり細菌のかたまりです。その下に見える穴の開いたコンクリートブロックのようなのが骨です。そして、実は!!!ポケットの底にいる細菌から歯を支える骨までの距離は健康な状態ではもちろん、病的な状態でもほぼ決まって約2mmの間隔で隔てられているのです。
歯と歯ぐきの間のポケットから細菌が進入してくる。そうすると骨は細菌から2㎜の距離をとりながら写真下の方へ(体の中心に向かって)自分自身の骨を溶かしながら移動して(逃げて)いきます。なぜかというと、生体は細菌が骨にまで進入してくると、生命の危機状態に陥る可能性が非常に高くなるからです。
これって何かに似ていると思いません?
そうです。しっぽを切って身を守るトカゲなのです。トカゲは外敵に襲われると自ら自分のしっぽを切り取り、そのしっぽをおとりにして逃げます。
ヒトも同様、生体は自分の歯肉から歯を切り離してでも、自分 の身を守ろうとします。それ非常に自然な自己防衛反応なのです。
進入してくる敵(歯垢=細菌)をできる限り少なくすれば骨は自らの体を溶かして逃げようとはしません。
それが毎日確実にブラッシングをして細菌を出来るかぎり少なくして(プラークコントロール)ほしい理由なのです。
歯周病菌の進行を止める、できれば治したい。
そのためには歯周病菌を少なくしなければなりません。
歯周病菌=歯垢=歯クソ外事≠食べかす
家でできるのはブラッシングできちんと歯垢を除去すること。それも、決して自己流ではなく正しい磨き方ですること。
右の図は歯の溝の状態を模式化したものです。
歯ブラシの毛先はポケットの底までは到底届きません。
なのになんで歯ブラシをすればよくなるのでしょう?
それにはこういうメカニズムがあります。
右図の右側は歯の周りに歯垢がたくさん残っているひとのポケットの中を、左はしっかりブラッシングのできている人のポケットの中をあらわしたものです。
実はポケットの入り口をきちんと磨いて歯垢をできる限り少なくすることで、ポケットの特に悪い細菌が少なくなっていくのです。
日常臨床でしばしば悩んでしまうことがあります。
それはブラッシングがうまくできなくて歯垢(プラーク)がどっさり付着しているにもかかわらず歯周病が進行していない人がいれば、一方で一所懸命ブラッシングをしていてプラークもそれなりに取れているのに歯周病が進行してしまう人がいるということです。
最近は歯周病は歯垢がたくさん付いていれば進行するのではなく、歯周病菌を発症させ、進行させる(病原性のある・・・という)細菌がいるかによるということがわかっています。
ブラッシングさえしていれば悪くならない、というわけにはいかない。
そこに、この病気の難しさです。
しかしこれらの細菌=プラークが発症させているのだとすれば、歯ブラシをしたり、マウスリンスをすることで取り除いてしまえばいいのですが、実際はそう簡単なことでなありません。
実は細菌ははじめ上図の(1)のようにばらばらな状態です。しかししばらくするとこれら細菌がお互いに手をつなぎ合いはじめ、簡単な歯ブラシによるブラッシングや、マウスリンスでは取り除けないスライムのような膜をもった(4)かたまりを形成していきます。
舌で歯を触るとヌルヌルしている。
キッチンの流しの掃除をサボっているとヌルヌルしている。
これらはよく似ていて、細菌でできたバイオフィルムといいます。
流しでしたらはずしてぶらしでこすったり、塩素系消毒剤に浸けたりもできるでしょう。
しかし、歯はそうはいきません。
これを除去できるのは機械的にこすり取るしかありません。
歯科医院での定期的なプロフェッショナル・クリーニング(PMTC)によってのみ、除去できます。